今回は生前贈与と特別受益についての後編です。
前回で生前贈与と特別受益の制度をご紹介しました。
“前回のおさらい
「特別受益とは遺産相続において、生きているうちに相続人にお金などを贈与する生前贈与のことを指します。
特別受益には生前に被相続人から相続人へ生前贈与があった場合、その贈与についても相続財産とみなされる特性があります。
この生前贈与したものが相続財産に組み入れられることを「持戻し」と言います。」“
今回は具体的な事例やイレギュラーな事例をご紹介します。
実際に生前贈与された場合の相続についてみてみましょう。
次の事例をご覧ください。
相続人は3人で配偶者と子供2人です。
長男は生前にお父さんから1000万円を現金でもらっていました。
お父さんが亡くなった時、遺産は預貯金3000万円がありました。
この場合の法定相続分は配偶者2分の1、長男4分の1、次男4分の1になります。
長男は生前にお父さんから1000万円もらっていますが、みなし相続財産として相続財産に組み入れられます。
すると実際の相続財産は4000万円になります。(預貯金3000万円+長男への生前贈与1000万円)。
この相続財産4000万円を法定相続分で分けると以下のようになります。
配偶者2000万円
長男1000万円
次男1000万円
長男の相続分は1000万円になりました。
生前贈与で同額の贈与をうけていますので、実質的に遺産分割時、長男は何ももらえません。
民法上、生前贈与は遺産の前渡しと考えられているからです。
では、生前贈与が長男に対してではなく、長男の配偶者に同額の生前贈与をしていた場合はどうなるでしょうか?
原則は特別受益の制度は相続人にしか適用がないため長男の配偶者は相続人ではないため、特別受益には当たりません。
しかし、『実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には,たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であってもこれを相続人の特別受益とみて,遺産の分割をすべきである。』(福島家庭裁判所白川支部昭和55年5月24日家裁月報33巻4号75頁)と判断しています。
状況によっては、長男の配偶者に対してなされた生前贈与も、実質的には長男に対してなされた生前贈与と同等に扱われてしまうケースもあるようですね。
また、相続税法では被相続人の亡くなる3年以内の生前贈与だけをみなし相続財産として相続税の計算をしますので、民法と相続税法では違った扱いがされることも注意が必要ですね。
生前贈与の相手や内容、その状況によって、遺産分割の際に問題になるケースが多く見受けられます。
特別受益の理解を深め、トラブルのない遺産分割を目指していきたいですね。